災害と健康

東日本大震災の経験の中で学んだ要点の1つが心身の健康である。5年を経過した被災地では、仮設住宅も少なくなり地域インフラや住宅の整備、産業の復興が盛んに行われている中であるが、震災の影響がいまだに大きく残っている。特に、関連死という統計データを通じで強く再認識する。H28年3月当時で1都9県にわたり3,472名(復興庁調べ)にも及んでいた。

突然発生する災害は、人的・物的にも多大な被害を広域に一瞬で生じさせるために、生き残った方々にも被災地で大きな心理的な負担を与える。そのため、人が心身の変調を感じることは正常な反応とも言えるが、うつ状態・PTSDなどの精神症状や、飲酒や喫煙などの健康問題が増える、さらには、悪化すると自死にもいたる。

高齢者や子どもは特に厳しい状況の中で、高齢者には身体症状の増加(持病の悪化)や子供の場合にも頭痛・腹痛・身体各部の痛みなどの身体の不調、気持ちが落ちこみ、またお漏らし・指しゃぶり・保護者へのべたつき(だっこ・おんぶ)といった退行現象(赤ちゃん返り)が報告されている。

この課題は、低頻度巨大災害への防災・減災を検討していく中で欠かせない重要項目であり、緊急・復旧対応の段階でも考慮し解決しなければならない課題であると認識している。しかしながら、解決の糸口も見いだすことが難しいと考える。想定する災害の規模やその後の状況(個人の被災状況に加えて避難所や仮設住宅,行政対応,民間支援など)により対応が大きく異なり、しかも、心身の健康を効果的統一的にモニタリングする手法がなく、深刻な状況になっての対応に留まっていると思われる。

従来、防災・減災への対応は、可視化(数量化)できる物理的な被害を中心に実施されてきたが、間接的な被害や災害時での健康問題のように可視化しにくい対象への配慮と工夫が必要であると考える。実践的防災学の構築の中で、人間・社会分野としても重要なテーマが「災害と健康」である。

文責:今村 文彦
災害科学国際研究所 所長
災害リスク研究部門 津波工学研究分野 教授

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