災害によっておこるストレスとこころと身体への影響について

災害や災害が引き起こす環境変化は私達の心身に大きな影響をもたらすことが知られています。東日本大震災から間もなく6年が経ちますが、復興に向けての道程が長く大変なものであるだけに、被災された方や復興に関わる方の身体とこころの健康を維持・増進することは重要な課題です。災害後に健康づくりを進める上では、災害がもたらすストレスとこころと身体への影響を理解して、これらの影響からの自然な回復が進むように心がけていくことが大切です。

東日本大震災のような大災害によってもたらされるストレスは多様で、大切な人を失う事による喪失のストレスや災害による急激で大きな居住環境、就労環境、学業環境の変化に伴うストレスに加え、予期しない形で突然生死に関わる恐ろしい体験に遭遇するストレス等があります。この様な体験は心的外傷体験とよばれます。この心的外傷を体験することに伴うストレスがこころと身体に及ぼす影響について取り上げます。

心的外傷体験後にみられるストレス反応とは、予期せずに生死の危険に関わる体験に巻き込まれることや、凄惨な光景を目撃することは、心に外傷を受けるかのごとき衝撃をもたらすということで、心的外傷体験とよばれます。災害は同時に多くの人に心的外傷体験をもたらします。心的外傷は下記の4つを特徴とする心的外傷後ストレス反応と呼ばれる反応を引き起こします。この反応は下記のような典型的な反応を中心とする4つのパターンに分類されます。1)心的外傷を体験した時の記憶が意図せず生々しく蘇る、2)その記憶を呼び覚ます物事を避ける、3)感情や感じ方が麻痺する、4)過度に警戒し緊張するなどです。東日本大震災で大規模半壊以上の家屋被災を受けた人の3割以上に一定以上の心的外傷後ストレス反応がみられます。そのうち、反応が長期間持続し、心的苦痛が顕著で、生活に支障が出る場合に、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されます。

同様の心的外傷を体験しても、その後、PTSDになりやすい人となり難い人がいることが知られています。経済状況や就労、教育環境はPTSDへの罹患し易さに影響を及ぼすことが示されており、PTSDを含むこころの健康向上の観点からも、地域社会の震災からの復興が待たれます。また、人との繋がりの豊かさはPTSDへの罹患し易さを引き下げることが示されています。個人レベルでも地域レベルでも周りの人との繋がりをみつにしていくよう心がけたいものです。

PTSDというと特殊な人だけに起こることのように感じられるかも知れませんが、心的外傷後ストレス反応は心的外傷体験を経験した多くの人が多かれ少なかれ経験するものです。震災から約6年が経った現在でも、当時の記憶が蘇って胸が苦しくなる方は多くおられます。このような現象が起きるということについて理解をし、安心して話ができるような環境づくりが重要です。また、この様なことで心痛が顕著で生活に支障がある場合には、専門の相談窓口や医療機関を安心して利用できるような環境が必要です。PTSDは有効な治療法が確立しており、治療可能な病気です。

文責:富田博秋
災害医学研究部門 災害精神医学分野 教授

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