仙台防災枠組と健康

2015年3月に第3回世界防災会議が仙台で開催され、国連に加盟する187か国の合意により仙台防災枠組2015-2030が締結されました。この枠組は、15年間にわたって、世界中で防災をすすめる規範として使用され、仙台の名前が冠されて世界中で用いられていることを大変誇らしく思います。

その枠組は以下のように大きく4つの優先行動からなっています。

  1. 災害のリスクを知る
  2. 災害リスク管理を強化する
  3. 災害に対してしなやかな強さを持つための防災に投資する
  4. 災害に対して効果的に対応し『よりよく復興する』ための備えを強化する

このなかに『健康(health)』が大きな位置を占めるようになったもの大きな特徴です。2015年までの防災の国際的な枠組であった兵庫行動枠組では『健康(health)』という単語は全体でたった3回しか使われていませんでした。それは『病院を安全に』するという行動目標を述べるところで使用されていました。それによって世界中で病院を災害に対して安全なものにしようという取り組みがなされたのです。仙台防災枠組でもその取り組みは高く評価されて今後も継続することになって います。仙台防災枠組では、これに加えて『災害は人々の健康に大きなダメージを与える』というあたりまえのようなことが初めて記載されたのです。この理由にはいくつかあります。

ひとつは、東日本大震災では多くの方々が亡くなりましたが、外傷の数は20年前の阪神淡路大震災と比較してもずっと少なく、その一方でさまざまなこころとからだの健康の課題が表面化したことです。地震に強い建物、インフラの整備が進んだことで、死亡や外傷は減りました。しかし、お薬や保健医療サービスへのアクセスが途切れて困る方が沢山発生したのです。また、被災者のこころの健康が 大きなダメージを受けて、適切で迅速なケアの必要性が認識されたためです。

もうひとつの理由は、2014年に西アフリカで流行したエボラウイルスやSIRS, MERSなどの感染症の大流行と福島の原子力発電所の事故です。人類にとって脅威となるハザードは地震や津波だけではありません。感染症の流行も、放射線の広範囲な漏出も災害なのです。ハザードというのは聞きなれないかもしれませんが、人類の生命や健康にとって脅威になりうるものはすべてハザード(Hazard)と言われます。

また、各ハザードに対する人間や社会の弱さを脆弱性(Vulnerability)と呼びます。これに対応する能力のことを対応能力(Capacity)と呼びます。バイオハザードや、放射線に対する適切な対応能力を築いておかなければ、二次災害が拡大するのです。仙台枠組はすべてのハザードに対する優先行動の実施を謳っているのです。災害と健康ユニットはハザードを研究し、脆弱性を減らして対応能力を向上させる研究をしているのです。

文責:江川新一
災害医学研究部門 災害国際協力学分野 教授

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