東日本大震災後の中長期的健康復興

災害公衆衛生学分野では大規模災害後の主に中長期的健康状態の把握とこれに基づいた健康支援を実施しています。公的なデータ等によると、震災後に一時自殺率は低下しましたが、1年半ほどして増加に転じ、現在では全国平均を上回っています。あるいは少し大きな音を聞くと「ビクッと」するなどの事例も報告されはじめています。

こうした背景をもとに災害公衆衛生学分野では多くの大規模健康調査を実施しています。それらの調査概要とその結果は以下の通りです。

【全国保育所調査】

東日本大震災による子どもの発育への影響を明らかにするために、全国の保育所に通っていた園児の健康状態の調査を行いました。これまでの解析から、被災地3県の子どもの体重への影響が示唆されました。震災後の過体重の子どもの割合を検討した結果、被災地3県(岩手県、宮城県、および福島県)の子どもは、他の地域の子どもに比べ、過体重の子どもの割合が有意に高値でした。また、個人レベルで、被災体験と有病との関連を検討したところ、男女ともに被災を経験した子ども、特に津波を経験した子どもの有病率が高い傾向がみられました。なかでも男児では被災体験とアトピー性皮膚炎に、女児では被災体験と喘息に有意な関連が認められました。

【地域子ども長期健康調査】

宮城県内で調査参加希望のある全自治体(28市町村)の調査を行いました。津波や住居環境の変化を経験した子どもで、アトピー性皮膚炎の症状及びこころの所見のオッズ比が高値で、子どもの健康に対して震災の影響が大きい時期に適時に最大限の支援を実施し被災地に貢献しました。総計で62,895人の児童・生徒の保護者に対象地域の全公立小中学校を通じて調査票を配布、17,043通を郵送回収。1,600件以上の電話支援と、100件以上の面談を実施しました。調査に先立ち対象の全小中学校を訪問、教諭からの聞き取り調査を行い、教育の現場での震災の影響は児童・生徒のみならず、教諭もつらい境遇にあることが明らかになりました。

【三世代コホート調査】

三世代コホート調査は、宮城県、岩手県の一部に居住する妊婦を起点としてリクルートし、その家族にもコホート調査に参加してもらう調査です。これの実施によって妊婦を中心とした家族それぞれの健康課題が明らかとなりました。メタボリックシンドローム全国ワースト2位の宮城県内でも、妊婦の肥満度割合には地域差のあることが判明し、市町村により必要な対策は異なることが明らかとなって、行政施策立案に活用いただいています。特に本来であればゼロであるはずの妊娠判明後の妊婦の喫煙率が平均して2%に達しており、特に石巻地域では、3.6%にのぼることが判明して関係団体に衝撃が走り、緊急の対策立案が行われています

文責:栗山進一
災害医学研究部門 災害公衆衛生学分野 教授

他のコラムを読む>>

ページ上部へ戻る