被災地における国際標準化された災害時分娩取扱い教育プログラムの展開

2011年に発生した東日本大震災、また、記憶に新しい2016年に発生した熊本地震。未曾有の大災害時に避難場所において妊娠中の妊婦さんはいわゆる「災害弱者」となります。ゆっくりと身を休める家を失い、それまで通い慣れたクリニックや病院が災害で閉鎖され、分娩する場所を一瞬に失う。お腹の中の赤ちゃんのことを優先しながら、食事や衛生面で不安だらけの避難生活を余儀なくされる。クリニックにあるはずの自分の採血データや赤ちゃんの成長データを新しい通院先に持参することができない、避難所や車の中で生活をすることによる妊娠への影響、ひとたび妊婦さんが災害時の混乱に飲み込まれると、そのストレスは想像を絶するものがあります。そんな時、我々は何ができるのか?妊婦さんのために何を提供できるのか?何を準備することができるか?

避難所で不安や心配に押しつぶされそうになった時、自分に寄り添う人の言葉や行動は何よりも温かいものです。それは必ずしも産婦人科医である必要はありません。看護師や消防士、救急救命士あるいは避難所を巡る内科医。我々はALSO-Advanced Life Support in ObstetricsやBLSO-Basic Life Support in Obstetricsと言われる産科医療に特化した教育プログラムを用いて、災害時に妊婦さんに最初に接する可能性のある他職種の人々に、分娩の機序やノウハウ、最低限の分娩介助技術、あるいは妊娠中の注意すべき事柄などの教育するプログラム啓蒙活動を推し進めています。これらのプログラムを通して、災害時に一人でも多くの妊婦さんに安心を届けられればと考えています。

文責: 齋藤昌利
災害医学研究部門 災害産婦人科学分野 助教

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