フィリピンの台風災害調査でわかったこと

災害科学国際研究所(IRIDeS)は、大きな災害が発生したときに災害に関する緊急調査を行います。フィリピンを2013年11月に襲った台風ハイエン(現地名ヨランダ)は、死者約6000人、被災者数1300万人(フィリピンの総人口の1/8)という甚大な被害をもたらしました。

IRIDeSではこの災害に対して2014年1月に緊急調査団を派遣しました。調査団の目的は、津波に匹敵するような台風による高潮のハザード評価、病院を含む建物の被害調査、保健医療対応、復旧・復興、早期警報や防災教育など広い範囲にわたっています。災害医学の研究者と他の分野の研究者、フィリピンの研究者が一緒に調査に行くことによって、災害の総合的な全体像と、ひとつの分野だけではわからないことがあきらかになります。災害医学部門では、レイテ島で最も大きな被害を受けたタクロバン市、パロ市の保健医療機関を訪問し、台風と高潮による被害の現状と、病院の備えについての調査を行いました。フィリピンはもともと台風の通り道であるため、強風と大雨に対する備えはあり、かつ数日前から襲来が予測されていたのですが、実際には、時速300㎞を超える強風と、通過したルート・海底・沿岸の地形により5m近い『津波のような』高潮、さらに吹き飛ばされた屋根から容赦なく降り注ぐ大雨により多くの医療機関が甚大な被害を受けました。

フィリピン政府は、2008年から『安全な病院』キャンペーンを行い、病院の災害に対する備えがないと病院として認定されない仕組みをもっています。このキャンペーンによりフィリピンでは安全な病院が確実に増えましたが、台風ハイエンのような巨大災害では医療機関にも大きな被害が出ますし、外傷だけではなく、慢性疾患、感染症、母子保健、こころの問題などの多岐にわたる保健医療のニーズが増加します。したがって、地域の病院を支え、被災者の健康を守るための医療支援も急性期から長期にわたって必要になります。

巨大災害はメディアも大きく報道しますので、とくに海外からの支援者はメディアで報道された場所(タクロバン)に行こうとします。でも、台風の経路は、フィリピンを東から西に横断し5か所に上陸してそれぞれ大きな被害をもたらし、それぞれの地域が医療支援を必要としました。フィリピン政府は、WHOと協力して海外からの150以上にのぼる医療支援チームを対応能力や資材の国際的な基準にしたがって、派遣する先をコーディネートしました。日本からの医療支援チームも、JICAからのJDRチームがタクロバンで活動し、自衛隊の医療支援チームはセブ島のダーンバヤンで活動するというように必要とされている地域への割り振りがなされました。医療は医療だけでは活動できず、情報を共有して、他の分野・セクターとも協力・協調して、より効果的な災害対応が求められるのです。

文責:江川新一
災害医学研究部門 災害国際協力学分野 教授

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