ネパールの地震災害調査でわかったこと

災害科学国際研究所(IRIDeS)は、2015年4月25日にネパールで起きたゴルカ地震(M7.8)に対して数回にわたって緊急調査団を派遣しました。ゴルカ地震では、5月12日に発生した最大余震(M6.8)の犠牲者も含めて死者8,790名、外傷者22,300名という人的被害が発生しています。災害医学の研究者は2015年7月に病院や水道施設、空港の物流拠点、ネパール保健省、WHOネパール事務所などを訪問し、災害に対する備え、実際の被害と対応状況についての調査を行いました。調査はなるべく現地の方々の負担にならないように、発災直後ではなく3か月後のある程度落ち着いた時期に行いました。

ネパールは地震の多い国として、耐震対策が行われていたところでは倒壊までには至りませんでしたが、全国では5つの病院、12の診療センター、417のHealth Postと呼ばれる診療所が全壊し、さらに765か所の公的・私的医療機関が部分損壊を受けました。休日である土曜日に発災したことで、多くの学校が倒壊したにも関わらず子供たちの犠牲が少なかったのは救いのひとつです。
ネパールでは、最も歴史があり大きな大学であるトリブバン大学を中心に、災害に対する病院の備えとしてHOPEという災害医療の教育プログラムが以前から実施されており、災害に対して医療機関がそれぞれ素早く対応しています。ネパール政府は、発災後ただちに保健医療の対策本部が立ち上がり、WHOや国連の調整事務所と協調して、海外からの保健医療支援の受け入れと調整を開始しました。無制限に支援を受け入れることはせず、150程度のチームが入国した時点で、それ以上の混乱を避けるために国際的に”STAND DOWN(待機せよ)“という通知を出して入国を制限しました。また、国際的な医療支援チーム(EMT)の基準を満たしているチームのみを入国させ、多数の被災地のどこに派遣されるべきかを調整しました。外傷ガイドライン、母子保健ガイドライン、リハビリテーションガイドライン、メンタルヘルスのガイドラインをすべての医療支援チームに手渡し、たとえば大きな手術には必ずネパール人医師が立ち会うことを必要とし、必要かつ適切な治療が行われるようにしています。各病院はHOPEプログラムに基づいて入院患者の安全を確保し、多数の傷病者を緑・黄色・赤のトリアージにしたがって効果的に医療が受けられるように対応しました。病院はラジオやSNSを用いて、周辺住民に手指や食べ物の衛生を保つための工夫を伝え、伝染病による二次的な健康被害の予防に努めました。人々は尊厳をもって災害に対応し、混乱のなかに強い意志をもって復旧・復興に取り組む姿が印象的でした。

IRIDeSは、2016年11月にトリブバン大学と部局間学術交流協定を締結し、災害医療、メンタルヘルスなどでの共同研究を推進することを目指しています。防災技術の導入によりネパールでの地震による死者や外傷は減少することが期待されますが、人々のこころとからだの健康に関する防災を推進していきます。

文責:江川新一
災害医学研究部門 災害国際協力学分野 教授

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